取扱業務

預金補てん請求事件

預金者保護法

1. はじめに

預金者保護法とは、正式名称を「偽造カード等及び盗難カード等を用いて行われる不正な機械式預貯金払戻し等からの預貯金者の保護等に関する法律」といいます。
預金者を保護することを目的とした法律ですが、法律の名前から分かるように、キャッシュカードを使用した不正な出金(注1)の場合を定めたもので、通帳やネットバンキングによる被害は保護の対象となっていません。
平成10年ころから、盗難通帳と偽造印鑑に悪用して、預金を不正に出金する被害が多発しました。また、キャッシュカードをスキミングして作った偽造カードを利用した不正出金の被害が平成15年後半から多発し、ゴルフ場を舞台にした犯罪グループが逮捕されたことをきっかけとして社会問題となりました。これを受けて、金融庁ではスタディグループを立ち上げ、また、与野党で法案を出し合い、平成17年8月3日に預金者保護法が成立し、翌18年2月10日に施行されました。
この法律は、偽造キャッシュカードと盗難キャッシュカードによる不正な払戻しと借入れを対象としています。

(注1)出金とは、ATMといった機械式払戻機からお金を引き出すことで、預金の払戻しや金銭借入(お金を借りること)を指します。

2. 偽造キャッシュカード被害の救済
原則として出金は無効

偽造されたキャッシュカードを利用して出金された場合、その出金は無効であって効力がありません。民法は、この無効の例外、すなわち、出金が有効となる場合があることを民法478条が定めています。しかし、偽造キャッシュカードの場合には、預金者保護法3条本文によって民法478条の適用が排除される結果、やはり無効となります。

例外1

預金者保護法3条但書では、偽造カードではなく、真正なカードでの出金では、民法478条の適用が排除されないと規定しています。したがって、使用されたキャッシュカードが偽造されたものなのか、真正なカードなのかは、出金の効力に直結するため重要となります。金融機関は、偽造カードではなく真正カードが用いられたこと、そして民法478条の適用があることを主張・立証することになります。

例外2

また、偽造カードを用いて出金された場合に、例外として有効となることを預金者保護法4条が規定しています。具体的には、

  1. (1)預金者の故意により出金がなされたことを金融機関が立証したとき
  2. または、
    (2)A.金融機関が出金について善意かつ無過失であること、かつ、
    B.預金者の重大な過失によって出金がなされたこと、
    いずれも金融機関が立証したとき
  3. 以上(1)(2)のいずれかが認められたときにも、出金が有効とされます。
    (1)の「故意」は、預金者が偽造カードを用いて出金がなされることを認識した上で、あえて自ら出金をする場合、あるいは、他人に出金させる場合を指します。
    (2)は、金融機関が出金を行う者が真正の受領権限を有する者であると信じたことないしは信じたことに過失がないこと、そして、預金者が出金されたことについて故意と同視しうる程度に注意義務に著しく違反すること(重大な過失)を指します。重大な過失にあたる場合としては、不正利用が見込まれるのに他人に暗証番号を知らせたり、カードの上に暗証番号を書いていたり、カードを第三者に預けたりした場合が例として挙げられています。
    偽造カードが用いられた場合、例外として出金が有効となるためには、金融機関がこれまで述べたことを証明しなければなりませんが、その証明は難しいとされており、その点で預金者保護法は預金者の被害救済をはかっているといえます。
3. 盗難キャッシュカード被害の救済
預金補てん請求権

偽造されたものではない,真正カードによる出金は,民法478条の適用が排除されないことは既述のとおりです。したがって,不正出金であったとしても民法478条によって有効とされる場合がありますが,預金者の保護をはかるために,預金者保護法5条によって預金の補てん請求が認められています。
金融機関が真正カードによって出金がなされたことを主張・立証した場合には,預金者は,同条の補てん請求を金融機関に対して行うことになります。

預金補てん請求権が認められる要件
  • (ア) 預金者が盗取されたと認めた後,金融機関に盗取されたことを通知したこと
  • (イ) 金融機関の求めに応じて十分な説明を行ったこと
  • (ウ) 捜査機関に盗取にかかる届出を出した旨の申告等をしたこと
  • (エ) 上記①から③が出金から30日以内に行ったこと

以上の要件をみたした場合には,不正出金について,預金者は金融機関に対して預金の補てん請求をすることができます。
盗取とは,盗み取ることですが,スリや空き巣などの窃盗被害にあったことを指します。上記③では,盗取されたことを捜査機関(主に警察のこと)に届け出ることが要件とされていますが,実際の運用としては,まずは「遺失届」が受理され,その後の聴き取り等の捜査によって「盗難届」が受理されているようですので注意が必要です。

補てんされる金額

預金者に以上の要件が認められた場合,金融機関は反論として以下を主張・立証することにより,補てん金額を減額ないしはゼロにすることができます。

  • (ア) 不正な出金でないこと
    不正な出金ではないということは,盗難に遭ったようにみせかけて,預金者自身で,あるいは他人を通じて,真正カードで出金を行った場合をいいます。
    金融機関は不正な出金でないことを証明する必要があります。
  • (イ) 預金者の過失
    過失とは,損害の発生を予見して,それを防止する注意義務に違反したことをいいます。カードが盗まれ,暗証番号が入力され,預金が不正に引き出される場合には,カードの管理,そして,暗証番号の管理がそれぞれ問題となります。
    金融機関では,預金者に対してカード及び暗証番号の管理について,ホームページや窓口で注意喚起をしていますので,各自でご確認ください。
4. 最後に

日常的に使用しているキャッシュカードについて,それを悪用する犯罪がいろいろな手段で発生しています。手口はますます難しく,かつ,複雑になっており,それに対する対応は,まずは金融機関,そして,捜査機関となりますが,不正出金の被害に遭った預金者が適切な補償を受けられるためには法律に基づいて手続きを行うことが必要です。何かあった場合には,すぐにご相談ください。

一覧に戻る

PageTop